ある日の午後、ハカセの私室を訪れたマーベラスは、彼に一冊の薄い本を突きつけた。 「うん?どうしたの、マーベラス?これ地球の高校の教科書じゃん」 ハカセがぱらぱらとページをめくってみると、既に数箇所にマーカーのラインやマーベラスの筆跡で書き込みがされている。 「この前の高校の卒業した奴らに貰ったんだよ…って、いいからとっとと教えろって」 何となく照れくさそうにマーベラスは頭を掻いた。 それぞれの育った環境のせいもあって、教養という点において、ゴーカイジャーではメンバー間にかなりの格差ができている。 中でもマーベラスはルカと底辺を争っている状態だ。一般教養を身につけているジョーや鎧に劣るのはもちろん、王女として最上の教育を施されてきたアイムや有能なエンジニアのハカセとは比べものにならない。 マーベラスが身につけている教養といえば、宇宙海賊を営む上で必須の基本的な宇宙地理学や航海学、基礎的な機械工学と地球をはじめ幾つかの星の言語というくらいのものだった。 アカレッドはあれでなかなか学のある男ではあったのだが、できるだけの配慮はしてくれていたものの、たった一人で子供二人の教育を全て賄うことは不可能だったのだ。 そんな状況であったわけだが、ここに来てなぜ急にマーベラスが勉学意欲を示しているのか―――。 それを考えてハカセはある思いに至り、教科書から視線を上げてニヤリとマーベラスの顔を見た。 「―――ファミーユ星の次期国王の座を狙う身としては、やっぱ教養とか気になっちゃうわけ?」 耳まで真っ赤になって一瞬絶句したマーベラスは、ハカセの手から教科書を乱暴に奪い取った。 「うっせえよ!恥を忍んでてめえを頼ってきてやったのに、もー頼まねえ!」 「あーごめんごめん。ちゃんと教えるよ、教えますって」 ハカセは苦笑して眼前で両手を振った。 マーベラスは、もちろん、教養でアイムに勝とうなどとは思っていないが、少しでもアイムと並んで恥ずかしくない男になりたかったのだ―――。 そんな思いがハカセには見え透いていて、「マーベラスって意外に健気だなあ」と思うのだが、火に油なのは目に見えているので、もちろん口には出さなかった。 その少し後の話であるが、同じ時期に同じ様にアイムの部屋を訪うルカの姿があった。 「…ジョーさんはお幸せな方ですわね」 悪気無く見透かしてにっこりと微笑んで言うアイムに、ルカもやはり真っ赤になって絶句した。 同じ光景が人と場所を変えて再現されていることをルカもマーベラスもお互いにもちろん知る由も無い。 地球から離れた宇宙船の中にも、どうやら春は訪れるものであるらしかった。 >>BACK ![]() |